一夜明けて

昨日の夜には書かなかったけれど、おれがWJに会うためにMと彼の友人の二人と別れた後、彼ら二人は再度デモ隊に付き添って撮影を続行、再び海龍に戻ったデモ隊が集まっているところのすぐそばまで行って撮影していたという。小声とはいえ日本語で会話もしていたというから見上げたものだ。後の大使館の騒動を聞いた今となっては、彼らの行動は命知らずにもほどがあるという感想を引き起こすかもしれないが、当時はその程度だったのだ。先の西安大学の事件のときは、暴徒化したデモ隊が大学の寮の中にまで入ってきて、学生にパスポートを見せるように要求し、日本人だと分かると部屋を荒らしていったそうだ。今回の北京のデモとは大違いである。
ところで、家庭教師のほうのWJがおれに教えてくれた掲示板がある。そこは北京のとある大学で日本語を学んでいる学生の掲示板なのだが、彼らは一様に反日ムードの高まりに危機感を強めている。そこには無論、この雰囲気が強くなって彼ら自身の立場が悪化しては困るという動機もあるだろう。彼らは下手をすると漢奸呼ばわりされかねないのだ。とはいえ、そこに書かれていた深圳での反日暴動に対する分析がなかなか面白い。
その分析によれば、深圳でのデモに参加して日本の商店を打ち壊した人間は四種類に大別できるという。
1 憤青はてなのキーワードになってるので詳細はクリックしてください。
2 騒ぎに乗じて商店の品物を奪おうとする者。
3 一日中退屈していて、何かすることを探している暇人。
4 別の目的があって騒ぎを利用しようとしている者。
この意見は冗談半分なのかもしれないが、家庭教師ではないほうのWJに見せたら「だいたい正確だ」と言っていたからそれほど見当外れな説明でもないのだろう。彼は「多分二番目が一番多いだろう」と付け加えていた。さらに「外交問題でならデモが起きるが、中国国内の問題ではデモが起きないだろう、やったところでどうせ何も変わらないからな」とも言っていた。
おれは5日の日記で書いたことを訂正しなくてはならない。中国人自身が、こうしたデモに参加する動機の一つは憂さ晴らしだろうと言っているのだから。
今日も懲りずに市内に行ってきた。初めのうちこそ多少緊張していたが、別にどうということもない。海龍の前には今日も相当数の警官がたむろしていたが、かといって何かが起きているわけでもない。
日本製品ボイコットが叫ばれていた昨日のデモを思い出しながら、日本のゲームしか置いていない西単のゲーセンに入ってみる。いつもどおり、多くの客でごった返していた。デモの影響など微塵も感じられない。知り合いの何人かには「今日出てきたのかい」と驚かれた。中国国内では報道されていなくとも、中国人はみな何があったかを知っている。噂以外にも、彼らは香港やアモイのテレビから情報を得ているのだ。
せっかくなので知り合いを捕まえて昨日のデモについての考えを聞いてみた。彼の考えでは、デモ隊の主張そのものには見るべきものがあっても方法が良くない、それに日本の一般市民と政府は別物だから心配いらないとのことだった。気を使ってくれた可能性は否定できないが、ともあれこういう冷静な意見もあるのは確かなことだ。日本でニュースを見ているだけならば今の北京はさぞかし危険な場所のように見えるだろうが、実態は決してそんなことはない。今日だっておれはLWと別の友人と三人で食事をしてから、LWに送ってもらって大学に戻ったのだ。
ただ、おれと仲の良い中国人は一様に「日本の政府と一般市民は別だ」という。これはつまり、おれと仲の良い彼らも、日本の政府には良い印象を持っていないに違いないということだ。
普通の中国人は今回のデモのような行動には決して全面的な賛意を示さないだろう。おれの友人たちは相変わらずおれの友人でいてくれている。現実に日本製品のボイコットなんてものも起きていないようだし、これからだってそう簡単にボイコットが起きるとは思えない。ただ、だからといって今度のデモ隊が掲げた日本のもろもろの政策に対する批判にも同意していないわけではないのだ。彼らはこれからも日本製のデジカメや携帯を買い、日本のゲームやアニメを享受するだろう。その一方で、新しい歴史教科書や靖国参拝を批判するのだろう。