勘違い

しばしば耳にすることだが、中国人は簡単には謝らないといわれる。おれ自身もそう思っていたし、ある程度はあたっているのだろうと今でも思っている。この俗言はおれにとってはもう一つ意味があって、日本人は簡単に謝りすぎるという印象があった。
もっともこれはあまり正確な表現ではない。例えば人込みをかき分けて進むとき、日本なら「すいません」といっておけばまず無難だ。かといってこの感覚を中国にそのまま持ち込んで、直訳して「対不起」とか「不好意思」とか言いながら進むのはきっと中国人らしくないのだろうと思い込んでいた。実際そういう場面では「過一下」とか「譲一下」という言い方もよく耳にする。こういう言い方を知らなかった頃、おれはなんとしても「すいません」の直訳を使いたくなくて、でも何も言わないのも変だと思って困っていたものだ。
ところが、現実には中国人でもその場面で「対不起」とか「不好意思」と言う人もいる。最初に聞いたときはけっこう驚いた。おれはあれほど警戒する必要などなかったのだ。ただ、こういう言い方が中国人にとってどういうふうに聞こえるのかはわからない。きわめて礼儀正しい表現なのか、それともごく当たり前の表現なのか、そういったことは判断できない。まあ何も言わずに体当たりしてくる人も多いわけだから、恐らくは相当礼儀正しいのだろう。