北京到着初日

去年の8月末におれは初めて北京にやってきたわけだけど、昨日の予告どおりその当時のことを。
夕方、飛行機は少し遅れて首都空港に着いた。怪しげな中国語でどうにかテレホンカードを買って電話を済ませ、タクシーに乗って大学へ向かう。ぼられることを恐れて一応客引きはすべて追い払ったが、かといって自分が乗ったタクシーが普通であるのかどうかが判別できない。俎板の鯉とはこの心境かと思ったが、特に問題ないまま大学に到着したのは夜の8時過ぎだったろう。
この時点でおれの最大の懸念は、今日どこに泊まるかであった。あては一応あった(実はこれとて思い込んでいただけだったわけだが)にせよ、暴挙である。もしもおれが中国はもう何度も来ていて現地に友人がいて、といった人間であれば「素人にはおすすめできない」とか言っておけば格好がつくが、以前書いたように、中国はおろか海外が初めてだった。ちなみに今だからこそ言えるが、8月末から9月初めごろは各国から留学生が殺到するために、満室のホテルがほとんどだ。素人はおろか、玄人にもおすすめできない。まして、おれの飛行機は夕方に到着する便だった。我ながらよくやったと思う。
あてというのは大学内のホテルのことだったのだが予約無しでは泊まれるわけもなく、担当の女性に泣きついたところ、おれと同じ境遇の白人の女の子二人と一緒にすぐそばのホテルに泊まれるように手配してくれた。担当者は何のためらいも無く「三人一部屋でいいか」と言い、三人とも拒否しなかった。この瞬間おれの頭脳は高速回転を始めたが、不埒な妄想はさておき、相手が白人では英語を使わざるを得ない。初日からこの展開はまるで予想していなかった。自分の不勉強を後悔する。ところがホテルに着くと、何事も無かったかのように二部屋をあてがわれた。無論、おれ一人と彼女たち二人である。勿体無いとか思うよりも、英語をしゃべらなくて済むことに安心した。勉強はきちんとやっとけということだろう。
次に予想していなかったのは押金600元だった。カードを作るのは出発間際の忙しさから間に合わなかったため、現金で出さざるを得ない。押金という制度は知っていたが、まさか600元も要求されると思っていなかったのだ。ぎりぎりで足りたから良かったものの、この時点で財布の中身は数十元しかなかったと記憶する。慣れないながらもどうにか夕食をすませ、シャワーを浴びて一息つくと、こまごました忘れ物が多いことが徐々に明らかになって気分が沈んだが、こっちで買えばいいだろうと開き直って、テレビを少し見てからすぐに眠りについた。