まだ足元がふらつく

山頂から北京市街を望む。

階段の上り下りがかなりきつい。年寄りみたいでもあるが、それよりも去年薬を飲んでた時期に出た副作用を思い出す。あのときも膝がものすごく痛かった。
で、昨日の出来事を。
香山公園に行ってきた。同行したのは中国人のLW(一文字だと混乱するので今回から二文字にします)。午前11時に大学の門で待ち合わせていたのだが、彼が自分の車で来るとは予想していなかった。しかもBMWである。同い年なのでいささか引け目を感じるが、気にしていても仕様がない。
彼とはゲーセンで知り合った。以前からおれも、1プレイ1元は普通の中国人の感覚からすれば高いのではないか、つまりゲーセンに通うような中国人は比較的裕福なのではないかと思っていたが、それがこんな形で明らかになるとは思いもよらなかった。彼は仕事の関係で今度日本に行くそうで、それでおれに日本語を教わりたいという。
今日の目的地の香山は北京近郊では比較的有名な山で、海抜は500メートル強。秋には多くの人が紅葉目当てで訪れる。周辺にはそれなりに廟や寺があるようだが、今日は同行者が同行者なので多分行かないだろうと諦めた。彼の目的は体を鍛えることだと聞いている。薄手のコートを着込んだおれとは違って、彼は上半身長袖のTシャツ一枚だ。やる気に満ち満ちている。ロープウェーに乗れば20分くらいで頂上まで行けるが、今回は用無しであろう。
車を降りてすぐに登山道へ。いつものように石段である。上りは基本的に楽なので自分のペースで登るが、彼はおれより20キロほど体重が重いのですぐに休憩を要求する。腹を撫でながら「痩せなくちゃな」と笑っていた。どうやら真の目的はダイエットらしい。おれが用意してあげた500mlの水はあっという間に無くなって、途中で自分で買い足していた。多くの観光客が来ている中、上半身裸の老人とすれ違ったときはさすがに驚いた。最高気温は10度にいってないはずだ。下を見下ろすと遠くに頤和園が見える。おれの寮から最も近い世界遺産だが、いつでも行けると思ってまだ行っていない。周囲の山の上には小さな施設が見える。解放軍のものだと教えてくれた。
2時間ほどで山頂に着いた。休憩所でお茶を飲みながらひまわりの種を食べる。中国人は片手と口だけで器用に食べるが、おれは両手で殻をむかなくてはならない。ひとしきり雑談。彼は繰返し「中国は人が多すぎる」と言って、様々な社会問題を全て人口問題に集約させていた。妥当な考え方かも知れないが、かといって人口を減らすわけにもいかないだろうに。その後結婚の話になった。彼は「結婚に何の意味がある?」などと言ってまるでその気がないような口ぶりをしていたが、日本語の「けっこん」を繰返し練習している様を見ていると、日本で女の子を捜すつもりなのではないかという疑念が湧いてくる。
下山ということになって立ち上がったときに初めての足の疲労に気づく。まあどうせ下りだから大丈夫だろうと思っていたら、上りのときとは打って変わって元気になった彼は、走りながら下山していく。仕方が無いのでおれも一緒に走って下りたのだが、下りのほうが足にかかる負担が大きい。徐々に膝に力が入らなくなる。行きとは逆に、彼がおれをフォローする場面が増える。「飛び跳ねるのがコツだ」とか言われるのだが、とてもおれに相応しい方法とは思えない。駐車場まで戻ってきたときには立てなくなる寸前だった。
その後なぜか東直門の日本料理屋へ。吉野家を除けば、北京では二度目の日本食である。おれは幸い中華で腹を壊したことが無いので、わざわざ北京まで来て日本食を食べる気にはならなかったのだ。日本と多少の違いはあるが、味はまあまあ。彼は運転があるから飲めないのに、おれのために日本酒を頼んでくれた。刺身はともかく、寿司は彼の口には合わないようだ。中国では冷たい米など考えられないと言っていた。二時間ほど飲み食いして300元くらい。当然のようにおごってくれるのが恐ろしい。彼はいくらの給料を貰っているのか聞きたくて仕方なかったのだが、タイミングがつかめなかった。次こそ聞き出したいものだ。おごられた礼を言うと「日本でお前がおごってくれ」という。日本の物価のほうがはるかに高いんだけど、とは言えなかった。