昨日とおとといのことを

週末普段そうしているように、おとといもゲーセンに行って遊んでいたら「今日は皆で食事に行こう」と誘われた。断る理由は何も無いし、こういうときでもないと大学以外の場所で中国人に接する機会は無い。喜んでついていくことにした。ゲーセンから店に移動しようとしたとき、一人が彼女と喧嘩を始めてしまい、おおいに気まずくなる。彼らをなだめる人間が数人残って、おれは残りのメンツと一緒に先に店に移動した。
彼らと食事に行くときはたいてい羊肉串の店だ。着いたときには8時45分くらいだったのに、9時には閉まるという。あわてて料理を頼んで、残って喧嘩している二人と、彼らをなだめている数人に急ぐようにと連絡する。
ようやく全員そろったときには何時になっていたのだろう。総勢で9人になった。喧嘩の当事者たちはまだ不機嫌そうだった。おれもああいう喧嘩は覚えがあるので身につまされる。おれの経験から言って、彼女を連れてゲーセンに行くべきではない。ともあれ食事と酒のせいでだいぶ場が和んでくる。
店の店員たちが入り口近くに卓球台を出して遊んでいる。おれたちが帰るまで店にいなければならないのだろうが、暇つぶしに卓球を選択するあたりは中国らしい。もはや料理を頼めない時間であるにも関わらずおれたちは長居した。結局店を出たのは11時過ぎだ。9人のうち半分はタクシーで、残りはこれから向かう家の住人である友人の自動車で移動。車内でまたも罵倒語を教わるが、酔いのせいで忘れてしまったのは残念だ。
着いたと言うので車を降りる。皆に「ここからは日本語をしゃべらないでくれよ」と言われて、初めて自分が行こうとしている場所がどういうところなのかを理解した。巨大な門と電動の柵、北京でよく見る、軍事禁区だ。
住人である友人が守衛に何か説明する。多分「友人を泊めたい」とか言っていたのだろう。何人かは身分証を出し、残りは持参して無いということで押し切る。守衛もそれほど真面目に確認しようとはしなかった。いつものことなのだろう。まさか日本人が紛れ込んでいるとは思っていないに違いない。中国人と一緒ならこういうことも可能になる。たとえば、今でも外国人の立ち入りが禁止されている旅順に旅行に行きたいなら、中国人のツアーに参加すればよい。外見では見分けがつかないことがこういうときには有効に働く。見つかると大事になるだろうからそれほど積極的に勧めはしませんが。
実際に中に入ってからは興味津々で周囲を見渡したわけだが、それほど重要なものがあるようには見えなかった。軍隊で働く人間の家族が住んでいるというだけの地域だったように思う。現地に着いたのは真夜中だったせいもあろう。おれがさすがに緊張して黙っていると、日本語を習っているという一人の友人がおれに日本語で話しかけてくる。これでは黙っている意味が無いのでさすがにたしなめる。
友人の家についてからは、DVDを見て酒を飲んでゲームをやって、まあ普通の馬鹿騒ぎ。明け方にちょっと眠ったが、ほぼ完全に徹夜してしまった。残ってまだ遊ぶというものを残して、おれを含めて三人が朝方に帰った。明るいなかをふらふらしながら外に出てきたが、軍用と思しきトラックが数台、ほかには入り口の守衛と看板だけが、そこが軍事禁区であることを想起させるものだった。もっと自由に中を探検すれば何か見つけられたのかもしれないが、さすがにそんな度胸はない。「留学生スパイ容疑で強制送還」なんて見出し付きで報道されてはたまらない。
朝食を食べにマクドナルドに入る。雑談の途中で一人が韓国に対する悪口を言ったので突っ込んでみた。おれが中国に来てから、韓国を良く思っている中国人にあったことは一度も無い。日中間も決していい関係ではないが、将来的に中韓間はどうなるのだろうかと心配になる。そのくらい、中国人の韓国に対するイメージは悪い。去年報道された高麗に関する問題は、そうした根から派生したものかもしれない。
食後は地下鉄に乗り、二人は途中で乗り換えのために降りた。おれは大学近くまでの切符を買っていたのだが、面倒くさくなってタクシーに切り替えてしまった。部屋に戻ってからはじめて、日曜の夜に飲み会があることを思い出していささか後悔したがいまさらどうしようもない。あと数日で帰国するという日本の教授を送る会なのでキャンセルするわけにもいかない。一休みして飲みに行く。
どんな店に行くかと思ったら新疆料理の店だった。まさか昨日も羊肉を食べたとも言えないので、おとなしく付き合う。味は悪くなかったので助かった。大学に戻ってからもまた飲み直し。結局11時近くまで飲んでしまう。つい先日、ある友人に酒を控えると言ったばかりなのだが、まあ今回ばかりは仕方なかったということで許してもらおう。