Chinaの車窓から 上海篇(1)

午後7時近く、上海に到着。荷物をまとめて列車から降りる。人ごみの中で階段を下りていると、後ろでプラスチックが地面に落ちる音が聞こえた。一瞬自分とは無関係かと思ったが、気になって後ろを見ると見覚えのある形のものが地面に転がっている。地面に落ちているのはおれのCDプレーヤーの外付けバッテリーのふただった。あわててバッグを見てみると横のポケットに入れてあったCDプレーヤーが無くなっている。
今思えば、ここでおれは周囲をみるべきだったのだ。しかし当時のおれは列車の中に忘れた可能性を考えてEを待たせて列車に戻ってしまった。自分がいた座席付近を捜すも見つからない。すられたと気付くまでかなりの時間を要した。Eには「そもそも横のポケットは問題なんじゃないですか」とか言われたが、言い訳させてもらうなら、北京の若者はたいていMP3を持っている。今時CDプレーヤーに興味を持つ人間などいるまいと思ったのだ。現実にはこうしてすられたわけだが、何より痛いのは中身のCDだ。おれの大事な佐野元春がプレーヤーと一緒になくなってしまった。これでおれの上海イメージは一気に悪化した。
こうなってはどうせ見つからないのであきらめて駅の外に出る。南京では小ぶりになっていた雪が上海では相当激しくなってきていた。まずEが行きたがっていた蘇州までの切符を一枚買うために売り場を探す。かなりてこずったもののどうにか購入に成功、駅近くの中華料理のファーストフードで食事をすませる。ホテルの客引きたちを追い払いながら、取り急ぎ宿を決めたいおれはタクシーでの移動を提言したが、Eの反対に会う。彼は交通費を押さえたがっており、バスか地下鉄での移動を希望していた。Eはおれより先に上海に入っていた当時ドミトリーのある某ホテルに泊まっていたので、とりあえずそこに電話してみると空室無しとの冷たい返事。仕方が無いので別のホテルを電話で探し、南京東路近くの比較的安いホテルに決めた。
現地までは地下鉄で移動。なるほど事前に聞いたとおり地下鉄が使いやすい。持参したガイドの類には三号線がまだ未完成とされていたが、実際に着いてみると既に開通していたりする。ホテルに着いたのは午後10時ごろ、寒い中を三時間以上も外で費やしたことになる。交渉の甲斐なく、わずかな額しか値切れなかったがやむを得ない。おれはとりあえず休みたかった。部屋から見える雪の上海はいいものだったが、隙間風が入って足元が寒い。

Eが買い物に行っている間に雑務を少しこなして、彼が戻ってから翌日浦東空港まで行く道のりを検討する。31日からもう一人、Nが合流する手はずになっている。