Chinaの車窓から 北京篇?(3)

レッサーパンダ。

6日。午前8時半ごろ起床。今日はまず、Eがおれに預けていった荷物を届けてやらなくてはならないが、その前に風呂に入る。2日ぶりに風呂に入れたのは喜ばしいが、おかげで朝食の時間を失った。加えてEの荷物はおれの予想よりも多く、地下鉄で建国門まで行く気力を失ったのでタクシーで直行。
予定の10時半を少し回ったが建国門に無事到着。職員に部屋番号を尋ねてEの部屋まで行くと、彼はまだ眠っていた。荷物を渡してすぐさま前門に向かう。待ち合わせは11時半のはずだ。20分ごろには前門に到着、Nの到着を待つ。しかし一向に現れない。正陽門と箭楼の二つで迷っているのかと思い、両方行き来してみるが成果無し。彼女から電話が来たのは40分を過ぎたころだったように思う。待ち合わせ場所で行き違いがあったことを初めて知る。あわてて天安門東付近の地下道出口へと移動、合流に成功した。
さしあたって前門付近で食事を、と考えていたおれのプランは露と消えたが、故宮にも多数の食堂がある。まずおれは空腹を癒すべく昼食を提案、彼女の同意を得て快餐に入る。街中なら10元以下で食べられそうな食事が15元なのは癪だったが、ここは故宮であり、何よりおれは空腹だった。食事を済ませて故宮に入る。夏以来二度目の故宮だ。あのときは、北京に来てから最初の(そして今のところ最後の)ホームシックに襲われて、それから逃れるためにここに来ていた。
久しぶりに見る故宮は前日の雪のせいか、前回よりも新鮮な印象を受けた。あい変らず大きい。中国の世界遺産クラスの観光地というのは、何よりもその大きさに意味があるように思われて仕方が無い。Nが欲しがったので入り口近くの売店でガイドブックを見る。店員は自分の商品が置かれた状況を正しく把握しており、おれが海賊版の存在を仄めかして値切りにかかると、海賊版を実際に持ってきて比較してみせてくれたのは笑えた。
以前故宮を見たときには、おれもまだ中国の古建築をどのような点に注意して見るべきかがよく分かっていなかった。そのせいで見落としていた事が随分あることに気付く。夏に来たときは天井などには気が回らなかった。それに加えて肉体・精神両面の疲労もあり、東西の宮殿群を見ることなく帰ってしまったのだ。
初めて見る西六宮は、思っていたよりもはるかに博物館らしいところだった。西太后ゆかりの場所がほとんどである。至るところに施された龍の紋様は、ここが中国で唯一の皇帝の住居であったことを雄弁に物語っている。
Nは今夜の食事に北京ダックを希望していた。そのため店の予約を入れる。時計が3時を回ったくらいだったろうか、おれは彼女に故宮を切り上げて動物園へ移動するように提案した。故宮の北側へと突き抜けて、バス停を探す。途中で見かけた物売りが、待望の海賊版ガイドブックを持っていたので購入。今思えば、これをこそ値切るべきだったのかも知れない。あわてて乗ったバスは停留所の名前から察するに遠回りのようなので、西四で下りて別のバスを探す。しかしおれの知っている西四とはちょっと離れたバス停だったようで、うまく乗り継ぎが出来ない。時間が惜しいのでタクシーを拾う。
動物園は、これまで通過したことしかない。そもそも入ろうと思ったことがなかったし、今回彼女が希望しなければおれはここを訪れないままに留学を終えただろう。水族館の門票がばか高いのには驚いたが、今日のおれたちにとって重要なのは動物園である。入ってすぐにパンダ館。いきなり目玉商品を置いておくのもどうかと思うが、数年ぶりに見るパンダは確かにかわいい。土産ものを買ってから外へ出る。隣にいたレッサーパンダはかなり好奇心旺盛で、おれたちが見ているそのすぐ前まで近づいてきてくれた。そこまでは良かったのだが、この動物園も広すぎて、どこに何がいるのかいまいち把握できない。結局四不像を見られないままに閉園時間を迎えてしまう。
バスに乗って前門まで移動。ここからはおれも道を覚えていないので人力タクシーを拾う。以前紹興で乗って以来二度目だ。目的の店を知っているような顔をしていた運転手も、住人に道を尋ねていた。この辺りの道の複雑さは折り紙つきだ。事前に値段を確かめなかったせいでタクシー代に15元もかけてしまう。
着いた時にはまだ6時半くらいで、予約の時間まではまだ間があった。おれはこの前門付近の胡同をこよなく愛する身として、彼女を連れて散歩せずにはいられなかった。いつ来てもここはおれの感覚に訴えるものがある。国子監付近に代表される内城の整った胡同とは違い、曲がりくねった複雑な道路に小さな商店や食堂が軒を並べ、いつも活気と生活臭に満ちたこの街並のほうが、おれにはずっとしっくりくる。
とはいえ、辺りは昨日の雪が残っていてひどく寒いし、道は恐ろしく複雑なのでそれほど遠くまで行くわけにもいかない。15分程度で店に戻り、まだ時間には早かったものの中で待つことにした。店員がテーブルを用意してくれる。やがて予約分の席が空き、そちらに移動。おれもダックは久しぶりである。頻繁に食べるものではないだろうが、たまに食べるならとてもうまい。
食事を終えて前門まで歩く。飲みに行こうということになったので三里屯まで地下鉄とタクシーで移動。軽く飲んでから帰った。疲労はあったが、意地で日記の更新と風呂を済ませてから就寝。二人は明日帰国する。