一人暮らし

今日、相部屋の相手が出て行った。ついにおれの時代が来たというべきだ。これまで書いてこなかったものの、この日記を読んでいる人間の中でも数人には愚痴ったことがある。先日北京に来たEはおれと彼の冷え切った関係を見ていったからよく分かっているだろう。他にも、この文章を読んで大笑いしているであろう友人の顔が目に浮かぶ。笑いたければ笑え。おれは今最高に気分がいい。
思えば、北京に来た当初最も苦労したのは彼のいびきで眠れないということだった。日本から耳栓を送ってもらうまでは(後に中国でも普通に買えることが判明)毎晩憎悪を煮えたぎらせていたものだ。幾人かの友人はおれに一人暮らしを勧めてくれたが、金を節約するためには寮に居座るのが一番であり、実行できずにいた。
二度の衝突とそれに続く和平交渉も虚しく、おれたちはお互いを嫌いぬいたまま同居を続けていた。この一週間ほどは、おれは台湾に帰省する友人に頼んで部屋を貸してもらい、昼間はそちらで生活し寝るときだけ自分の部屋に戻っていた。そのくらい行き詰まっていたわけだ。
おれ自身は出ていったら負けだと思っていたし、だから絶対に出ていかないという覚悟だけは出来ていた。そうなると彼が出て行くのを期待するしかないのだが、正直出ていくかどうかはおれにも見当がつかなかった。持久戦で負ける気はしなかったが、勝てる自信もなかった。それが今日、おれにとっては最良の形で決着したのだ。
多分、同居人でなければそれなりにうまく付き合えたのだろう。彼がおれと仲良くやっていくために努力していたことも認める。しかしおれは彼が大嫌いだった。あれほどおれが美点を見出せない人間は、恐らく今後も現れないだろう。そのくらいおれは彼が嫌いだった。
この天下がいつまで続くかは分からない。新学期が始まったら誰か新しい人間が来るかも知れない。しかし、それまではおれは一人だ。
そういうわけで、今北京に旅行に来ると一名様に限り宿泊費が無料になります。希望者はおれまで連絡を。ただし、彼が持っていってしまったので布団はないですが。